深夜の煙と車内の涙――僕の最初の逃避

気づけば、毎日が灰色だった。

大学生からインターンで入った渋谷のインテリア事務所。正社員だと思っていたのに、「準社員」というよくわからない肩書きで、月給17万。

オフィスはとにかくタバコの煙で充満していて、僕以外みんなヘビースモーカー。今思えば信じられないけど、机も椅子も指でなぞればヤニでざらついていた。

昼休憩なんて存在しなくて、コンビニで買ったサンドイッチを片手に歩きながら食べるのが日課だった。

上司はいつも嫌味ばかり。社長が車で来ると、すぐに熱いコーヒーを用意しなきゃいけなくて、毎日その瞬間にソワソワしていた。

アパートは池尻大橋。家賃は7万2千円。自転車で通ったけど、毎日帰りは日付が変わっていた。

誰も優しくなかった。

仕事は覚えられないほどあって、怒鳴られたり、ため息をつかれたり。

土日はほぼ寝て終わり。気がつけば、心も体もすり減っていく音しか聞こえなかった。

ある朝、出社前の布団の中で、何かがぷつんと切れた。

「もう無理だ」って、初めて自分に言えた瞬間だった。

そのまま会社には行かず、実家に帰った。

両親とまともに話す余裕もなく、車のキーを手に取って、あてもなく走り出した。

夜の埼玉、スポーツセンターの駐車場。

薄暗い中、窓を少しだけ開けて、ただ静かにエンジンをかけたまま泣いた。

何本も着信があったけど、全部無視した。

あの時、確かに「逃げた」と思う。

でも不思議と、逃げた自分を責める気持ちはなかった。

むしろ、「やっと自分に許可が出せたな」って、どこかホッとしていた。

煙と疲れで詰まっていた呼吸が、

深夜の冷たい風に、ゆっくりほどけていった。

今も、つらい思い出として鮮明に残っている。

でも、あの“逃避”がなかったら、僕はたぶん今ここにいない。

自分を守るために逃げること――それは弱さじゃない。

きっと、誰にでも必要な選択肢なんだと思う。

また逃げたくなったら、いつでも逃げればいい。

そうやって生きていくのも、悪くない。

あなたが「逃げたい」と思ったとき、

それはきっと、心が出してくれているSOSだ。

大丈夫。どこかで深呼吸して、また歩き出せばいい。

たまには自分に「逃げてもいいよ」って言ってやろう。

僕はこれからも、そうやって生きていくつもりです。

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